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インタビュー

漂着ごみ日本一 対馬調査レポート ~見えてきた実態と地域の取り組み~

<赤島大橋から見える対馬の海 2025年6月5日 田坂撮影>

 長崎県の離島、対馬。美しい海と豊かな自然に恵まれたこの島でも、近年、深刻な環境問題が引き起こされています。それが「漂着ごみ」の問題です。漂着ごみとは、海岸に打ち上げられたごみのことをいい、海中を漂流している漂流ごみや、海底に堆積している海底ごみとは区別されます。これらの総称が海洋ごみです。今回は対馬の海岸に打ち上げられたごみの調査を行ったので、「漂着ごみ」という言葉を使用します。対馬の海岸には、その地理的な特性から大量の漂着ごみがあり、現在、行政や民間団体による調査や回収作業が進められています。

 今回は実際に現地を訪れ、複数の海岸の様子を調査するとともに、漂着ごみ問題に取り組む民間団体「一般社団法人 対馬CAPPA」を訪問し、お話を伺いました。本レポートでは、対馬における漂着ごみの実態やその背景、そして対馬CAPPAの取り組みを紹介します。

海岸調査

<対馬の地図>

 今回、対馬内6か所の海岸を調査しました。調査地点のひとつである赤島は、対馬の東海岸のほぼ中央に位置しています。対馬本島から延びる半島の先、住吉大橋を渡ると沖島があり、さらに赤島大橋を渡るとたどり着きます。対馬海流の影響でごみの漂着は通常西側が多いですが、赤島は東側にもかかわらず、西側と同様に大量のごみが流れ着いており、海流の影響による特異な現象が見られました。また、湾の入り口が小さいため、一見するとごみが入りにくいようにも思えるのですが、実際には多くのごみが湾内に留まっているという、非常に不思議な海岸でもありました。特に目立ったのは、漁網やブイといった漁業関連のごみや、木材などの大型ごみです。

 一方、井口浜は対馬の西側に位置し、ごみの漂着が多い海岸として知られています。ここでは赤島とは異なり、ペットボトルやプラスチック製のフォーク、サンダルなど、生活ごみに分類されるような小さなごみが多く見られました。ペットボトルのラベルには、韓国や中国の文字が目立ち、海外からの漂着であることが明白でした。また、この日はアナゴ漁に使われる高さ30cm台の円錐型の仕掛けが浜辺に多数打ち上げられており、ざっと見ただけでも30〜40個は確認されました。

 今回の調査では、赤島と井口浜を含め6か所の海岸を訪れましたが、いずれでも砂浜が見えなくなるくらいのごみが漂着しており、中には膝の高さまでごみが山積みになっている場所もありました。本州の海岸ではなかなか見ることがない高さ1mを超える大きさのごみが多数あるのも特徴的です。対馬の美しい自然の中に、大量のごみが打ち上げられている光景は非常にショッキングで、目を覆いたくなるほどのものでした。




対馬の漂着ごみについて

 今回取材をした対馬CAPPAの調査によると、年間を通して対馬に漂着するごみの量は推定でおよそ3万〜4万立方メートル(25mプール50個から67個分相当)にものぼるとされています。これらのごみは、自然木や加工木などの木材系と、プラスチック類とがほぼ半々の割合で構成されています。そのうち約7割は、韓国や中国など海外から流れてくるものと見られており、漂着ごみ問題が国際的な課題であることがよくわかります。

 対馬とごみの発生源である中国・韓国との距離が比較的近いため、ごみが大きなままで漂着するケースが多いのも特徴です。これに対して、日本海側の石川県のように大陸から離れた地域では、漂流中にごみが細かく砕け、マイクロプラスチック化している例が多く見られます。

 年間対馬に漂着する3万〜4万立方メートルのうち、回収できているのは8000〜9000立方メートル程度に過ぎません。これは単に人手や予算の限界というより、そもそも漂着量があまりにも多すぎるため、どれだけ努力しても追いつかないという現実を物語っています。また、対馬の海岸は岩場が多いため、漂着エリアまで人が入り込めず回収が難しいという問題もあります。いったん回収しても、数日後にはまた新たなごみが打ち上げられているという、「終わりの見えない」状況が日常的に繰り返されているのです。

対馬CAPPAの取り組み

<対馬CAPPAのスタッフ 波田あかねさん(左)、原田昭彦さん(右)2025年6月4日 田坂撮影>

 こうした現状に対して立ち上がったのが、「対馬CAPPA」です。対馬CAPPAのCAPPAは、「Coast and Aquatic Preservation Program Association」の頭文字をとったもので、「海岸および海洋環境の保全活動を行う団体」という意味です。今回の取材では、スタッフの波田あかねさんと原田昭彦さんにお話を伺いました。お二人とも対馬生まれ対馬育ちで、対馬の自然を心から大切にされています。原田さんは以前に漁師をされていて、対馬付近の海事情にも精通されています。

 対馬CAPPAは、もともと「美しい対馬の海ネットワーク」という任意団体から発足しました。当初は団体メンバーが月に数回集まって海岸清掃を行っていましたが、ごみの深刻さと広がりを前に、より大規模で継続的な対策が必要と判断し、現在代表理事を務める上野芳喜氏を含む、海ごみ問題解決に取り組む有志が中心となり対馬市と連携するかたちで法人化されました。現在は、対馬内に事務所を持ち、7名のメンバーで活動をされています。

 対馬CAPPAのメインの活動が、漂着ごみ清掃の実施・運営です。対馬の住民を募って行う清掃活動に加え、韓国の大学生と対馬の高校生が共同で実施する「日韓市民ビーチクリーンアップ」も毎年開催しています。清掃活動の後には、漂着ごみに関する意見交換も行われ、参加者同士が交流を深めながら漂着ごみに対する理解も深められる貴重な機会となっています。

 また、対馬CAPPAは「中間支援組織」としての役割も担っています。漁業組合や環境省、大学教授など、漂着ごみ対策に関わる多様な関係者を集め、「対馬市海岸漂着物対策推進協議会」を定期的に開催。行政と民間、地域住民との連携を促進し、対策がスムーズに進められるよう調整役として機能しています。

<漂着物のトランク・ミュージアム@対馬版>

加えて、啓発活動にも力を入れています。対馬内の小・中学校で出前授業を行い、子どもたちに漂着ごみ問題の深刻さとその対策について伝えています。また、「漂着物のトランク・ミュージアム@対馬版」と呼ばれる移動型展示では、実際に漂着したごみを旅行用のキャリーケース内にディスプレイし、それらのごみがどこからどのような経路をたどって漂流してきたかの説明書きも添えています。持ち運びが可能なため、どこでも漂着ごみを実際に目で見て理解を深められるおもしろい展示です。

 このように多方面から漂着ごみ問題に取り組む対馬CAPPAですが、お話の中で繰り返し強調されていたのは「ごみを出さないこと」の重要性です。リサイクル技術の向上や、海洋ごみ専用の焼却炉の整備といった技術的なアプローチももちろん大切ですが、それらにはリサイクルできない物やCO2排出の限界があるのも事実です。

 今回取材を通して、日常生活の中でごみを出さない工夫をすることが、私たちが実践できる効果的で持続可能な解決策なのではないかと思いました。普段からマイボトルを持ち歩く、過剰な包装を断るなど小さな行動の積み重ねが、遠く離れた対馬の海を守ることにつながるのです。              

(取材:田坂椰弥)