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全権大使のレポート
2026.03.23
香川・沙弥島ビーチクリーン活動に取り組む主婦の挑戦

「見ようとしないと見えないもの」

全国都道府県の中で面積最小の香川県。そのほぼ中央に位置し、温暖な気候に恵まれた坂出市北端に「沙弥島(しゃみじま)」はあります(地図⇒)。この島は工業団地の造成に伴う埋め立てで、今でこそ陸続きですが、瀬戸内海に突出した西向きの地勢と季節風や海流の影響で、特に冬季は海洋に漂うゴミが大量に漂着します。

(Googleより)

 
主婦、清水奈々さん(49)は、父が代表の豆腐店「くぼさんのとうふ」(宇多津町)を手伝いながら、その店近くの沙弥島で2021(令和3)年4月以来、毎月原則1回、多くの子どもたちを巻き込みながらビーチクリーン活動に取り組んでいます。清水さんは「見ようとしないと、見えないもの」の存在に気づき、主婦目線から環境保全へ向けた小さな取り組みの重要性を社会に訴えます。
                         (聞き手 高知全権大使 岩田正博)

 ―― この活動を始めたきっかけは何ですか。

(清水奈々さん)

当時、小学生だった長女がコロナ禍の真っ只中で、学校でも社会でも何かと制約が多い不自由な生活を強いられていました。このことが、親として心配でした。そこで、野外でノビノビ活動して、何かを感じ取ってくれる機会を作りたいと、地域の子どもたちに声がけしてボランティアで始めたのです。家業の豆腐作りは海からの恵みである「にがり」が不可欠ですので、健全な海を心の奥底でずっと望んでいたこともあったと思います。
クリーン活動の参加者は当初20人ほどでしたが、最近は多い日には40人に膨れあがります。これまでの5年間、地道にずっと今も継続できていることは、参加者一人ひとりがそれぞれに活動の意義を感じ取ってくれているからだと思います。

 ―― このビーチクリーン活動を通じてどのような環境の変化を感じますか。

(沙弥島の海岸)

体感でいうと、海水温は確実に高くなっていますね。海水温は気温の1ヶ月遅れといわれますが、徐々に水温が下がるはずの秋になっても、ぬるま湯状態が長く続きます。今シーズン、対岸の広島・岡山両県の養殖牡蛎が大量死したことが全国ニュースになりました。その要因は、年々高くなる海水温の影響が大きいと直感で思います。沙弥島に流れ着くゴミは相変わらずで、ペットボトルや発泡スチロール、ビニール袋などが大半です。全体的に減ってきたという実感は余りありませんね。

 

―― 特に気になるゴミはどのようなものですか。

特に私が意識して見ようとするゴミもあります。海岸に打ち上げられた水草を取り上げると、その下には様々な形状の全体に白っぽいマイクロプラスチックが目に飛び込んできます。砕けた貝殻・波に削られ摩耗して丸くなったガラス片などに混じり、微小な発泡スチロール片やレンジペレット(プラ製品の製造過程で用いられるポリエチレンやポリプロピレンで直径2~6㍉の円筒形や球状の粒)があちこちに…。さらにそれらと見分けは簡単ではないのですが、「肥料カプセルの残骸」(※「プラスチック被膜肥料」の被膜殻=文末参照)が目立つようになってきています。
これは直径2~3ミリの球状で、中の肥料が溶け出して空洞となったプラスチック残骸です。特に春先、田んぼに水を張る際に、前年に使用された肥料カプセルが用水路に大量に流れ出た結果と思われます。摘まむと簡単に潰れます。白・グレー・薄い黄色で、ぐっと目を凝らして見渡すと、その存在の多さに改めて気づき、本当に驚きます。

(プラスチック被覆肥料)

香川県は稲作が盛んな地域ですので田んぼから用水路、川をたどって海に流れ着いたのでしょうね。これらのマイクロプラスチックは小魚をはじめ海の生物が口にするのは確実です。食物連鎖で結局、最後は我たちの人体に入るのだと思うと、大きな不安を感じます。体内に取り込まれた場合の健康への危険性がいろいろ指摘されているので、主婦としてすごく心配ですし、不安です。しかし、これらのマイクロプラスチックの回収は、ボランティアのマンパワーだけでは限界があります。この現実に、クリーン活動に取り組んでいるのに忸怩たる思いでいっぱいです。

 ―― このような状況で、私たちはどうすべきだと思いますか。

プラゴミゼロ達成のために、社会からプラスチック製品を一掃するのが理想でしょう。でも、それは実際には現実的でありませんよね。プラゴミによる環境汚染を防ぐ国際条約づくりも各国の利害が絡んで停滞したままです。私の働く豆腐店も海洋ゴミになり得るプラ包装を今も使っていますが、それは軽くて丈夫で清潔、しかも安価だからです。取引先のことを考えると使用をすぐに止めることができない現状があります。
しかし、社会が「脱プラスチック社会」へ徐々に移行していくことは、十分可能だと思います。その対策の先進国としてフランスの取り組みが注目されていますよね。プラ包装からの脱却を掲げて、食品の量り売り専門店やスーパーの中に量り売りコーナーを設けている店舗が多くなってきているようです。客は食品を各々持参した容器に入れて、重さに応じて支払う仕組みです。もし容器を忘れた場合は、店が無料の紙袋や瓶などの容器を用意してくれている。飲み水のペットボトル飲料も、パリなどでは街中あちこちに無料給水所があり、市民や観光客はそれをマイボトルに入れて利用する…この無料給水所は、昨年の「大阪・関西万博」会場にも設置されていたので、馴染みのある人も多いのではないでしょうか。

―― 確かにフランスの取り組みは1つの参考例なるかもしれません。

(沙弥島のプラゴミを素材に、清水さんが創作したオブジェ。魚をかたどっており、カラフルなプラゴミはアイロンで高熱をかけ引き延ばして使っている。このオブジェは「くぼさんのとうふ」レジ横に飾り、来店する客に沙弥島の実態を伝えている)

フランスのこの動きは、プラ包装削減を目標にした法律(「気候変動対策・レジリエンス強化法」 2021年公布)によるものです。1・5㌔未満の未加工野菜や果物のプラ包装は禁止されているほか、販売面積400平方㍍以上のスーパーは4年後の2030(令和12)年以降は、量り売り面積を全体の20%以上にすることを義務付けています。日本でもコンビニでコーヒーを買う場合には、当たり前のように消費者はマイボトルを持参する…その意義を理解することから始めて、それが主流となっていくような社会になって欲しいですね。私の豆腐店でも、容器をお客さんに持参してもらって「おから」の量り売りを始めたり、総菜のプラ容器を紙製に替えたりしています。
沙弥島ビーチで一生懸命にゴミを拾ってくれる子どもたちが、そのように大人が取り組む姿を見て、環境保全の重要性を自然と学び取ってくれたら嬉しいし、それに期待しています。日本でもレジ袋からマイバッグを次第に定着させてきた実績があります。社会の仕組みを変えるには、そんな小さな取り組みを積み重ね、徐々に拡大させていくことが何よりも大切なのだと、私は信じています。

※プラスチック被膜肥料:樹脂でコーティングして肥料成分の溶出時期を制御する「緩効性肥料」。春に1回施肥すれば夏場の追肥の手間が省けるため追肥削減、施肥量低減による省力化が図られることから国内で広く普及している。農水省とJA全農など関係3団体は代替資材や硫黄被膜肥料への転換等を通じて2030(令和12)年までに現在のプラ被膜使用ゼロを目指す方針を打ち出している。

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坂出の環境保全団体「SBC」

(第30回SBCビーチクリーン活動 =香川県丸亀市の離島「牛島」で・2026 年3月8日)

香川県には環境保全に取り組む多くのボランティア団体があり、坂出市には3年前に「SBC」(坂出ビーチクリーニング)が発足しました。今年3月に活動30回を迎え、これまで延べ800人の中学生・高校生らが参加して累計1,000㌔の海洋ゴミを回収しています。
SBCを立ち上げた代表の岡内博信さんは香川県立高校の教壇に立つ理科(生物)の先生です。これまでの活動を通じて、岡内さんは「私にとってビーチクリーンは『バケツに注がれ続ける水があふれ、こぼれた水を雑巾で拭き取っているようなもの』というイメージです。どれだけ清掃を続けても海洋ゴミゼロは難しい…根本的な解決策は発生源(蛇口)を止めることなのですが、私たちには使い捨てプラ製品を削減させ、ペットボトルの代わりにマイボトルを使用するなどの日常生活における行動変容が何よりも求められるのではないでしょうか」と、日常生活の変革を呼び掛けています。