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人と社会への影響
2026.01.13
地球環境を守るために

根本概念の変革

私たちが取り組むB&G・プロジェクトは、その目標の一つとして、「成長、膨張、物質的豊かさの追求」というこれまでの社会の根本概念を覆す、全く新しい哲学、思想、概念(パラダイム)の創造と阿他らしい経済システムの構築を目指しています。
そのために関連する国内外の研究や調査資料に学んでいきますが、中でも重要と思われる資料(著作、論文など)につきましては、その分かり易い解説とポイントを、シリーズで紹介していきます。

ジェイソン・ヒッケル「資本主義の次に来る世界」

初回は経済人類学者ジェイソン・ヒッケルの「資本主義の次に来る世界」(東洋経済)です。
この本でヒッケルは極端な不平等や地球の環境、生態系を破壊する根本原因を、現行の資本主義にあると断じます。市場と利潤の拡大を目指す資本主義は、搾取と植民地支配をもとに常に成長を目指す以外にないシステムで、有限の地球を前に限界があること、そして成長=幸福という前提に疑問を提示し、GDP以外の価値尺度の必要性を強調します。その上で成長なしでも豊かに暮らせる「脱成長」構想を提唱しています。

本書には、労働時間の短縮や最低所得保証などの生活の質向上、公共サービスの拡充、税の改革による再分配の実現など、具体的政策提案もあり、説得力のある「資本主義の次」の提示として評価を集めています。
本書の概略は以下の通りです。____________________________

本書のテーマと目的
ジェイソン・ヒッケルは本書で、資本主義が前提とする「無限の経済成長」モデルこそが気候危機・生物多様性の喪失・社会的不平等の根本原因であると指摘します。そして、その解決策として「脱成長(デグロース)」=成長ではなく“十分さ”を軸に経済と社会を設計し直す思想を提案しています。


ヒッケルの目的は「経済を縮小させて貧しくなること」ではなく、過剰な生産と消費を抑えながら、人間の繁栄と幸福、そして生態系の回復を同時に実現することです。彼は、環境問題を技術革新や効率化だけで解決しようとする「グリーン成長」や「持続可能な資本主義」という物語は、成長そのものが消費を拡大させ続ける限り機能しない幻想だと批判します。


資本主義と危機の構造

  1. 地球の限界と成長の矛盾
    • 資本主義は利潤の最大化と市場の拡大を目的とし、そのために常に成長を強迫されるシステムです。
    • しかし地球は有限であり、無限成長は物理的に不可能
    • それにもかかわらず、経済システムは資源採掘・生産・輸送・廃棄の循環を加速させ、結果とし て環境危機が拡大
  2. 植民地支配と搾取の歴史
    • 産業革命以降の経済成長は、自然の収奪と植民地の支配の上に成立していた。
    • ヨーロッパ諸国は、土地・鉱物・森林・労働力をグローバルサウスから強制的に奪い、それを資本蓄積のエンジンとして利用した。
    • これは「過去の出来事」ではなく、現在も国際貿易・多国籍企業・金融システムの形で継続している構造的搾取(不等価交換)として現存している。
    o 例:安い賃金で生産させ、高く売る。資源を低価格で輸入し、利益は先進国に集中。
  3. 近代資本主義の根底にある世界観の批判
    ・デカルトに代表される二元論を批判する。人間(精神)と自然(物質)を切り離す発想は、自然を支配・利用可能な「モノ」へと還元し、搾取を正当化してきた。
    ・ヒッケルは、スピノザの一元論――人間も自然も同一の存在の現れであり、相互に依存するという考え方――に注目する。
    ・自然に内在的な価値や生命性を認めるアニミズム的世界観も参照し、近代以前の社会では人と自 然が関係性の網の目として理解されていたことを示す。
    ・環境危機の原因 技術不足ではなく根幹に「分断された世界観」がある。
    ・世界を相互連関の全体として捉え直すことこそが、脱成長と新しい社会倫理の基盤になるとヒッケルは主張する。

4. 富と幸福のデカップリング(切り離し)
• GDPや企業利益は増加しても、人々の幸福や社会福祉は比例しない。
• 先進国では、すでに基本的な物質的ニーズは満たされているのに、成長のために広告・ローン・
計画的陳腐化などで需要を人工的に作り出し続けている。

• 結果として:
o 物は増えるのに、時間・健康・コミュニティ・安心は減少
o 格差と貧困は生産不足ではなく分配の偏りから生じている


ヒッケルは上記のように資本主義を分析したうえ、更にそこに改革案として生まれた「グリーン成長」を批判、「脱成長」を提唱します。

「グリーン成長」(※)批判
• 資本主義は効率化すればするほど生産量を増やしてしまう(ジェヴォンズのパラドックス=後述)。
o 例:エネルギー効率が上がる → 企業はさらに生産し利益を拡大 → 総消費は減らない
• 再生可能エネルギーや電気自動車も、製造のための鉱物採掘・輸送・大量生産を続ける限り、資本主義的成長モデルの内部に閉じ込められ、問題の先送りや別の地域への負荷移転にしかならない。

(※グリーン成長=環境分野への対策を新たな経済成長の機会と捉え、関連分野への投資で雇用の創出や新事業の開発を図り、持続可能な社会の実現を目指す経済モデル。OECD・経済協力開発機構などが提唱)

脱成長(Degrowth)の提唱

目的の転換
• 「成長」ではなく 「人間の幸福」「社会的公正」「生態系の回復」 を経済の目的とする。
• 「足るを知る経済」の設計

目指すべき未来像
• 経済は「大きくなる」のではなく「良くなる」ことを目指す。
• 価値観の変革:
o 競争 → 協力
o 所有 → 共有
o 消費 → ケアとコミュニティ
o 利益 → 福祉と公正
• 人々はモノの獲得ではなく、時間・人間関係・創造・安心・余暇・参加の自由によって豊かさを感じる社会へ移行する


ヒッケルのキーワード概念
● 不等価交換(Unequal Exchange)
• 先進国が途上国から安く資源と労働を買い、高く商品を売ることで成長を維持
• これにより、途上国は成長しても富を奪われ続ける
● ジェヴォンズのパラドックス
• 効率化は消費を減らすどころか拡大させる
• したがって、効率化+成長ではなく 効率化+縮小 が必要
● コモンズ(共有財)の復活
• 土地・資源・知識・公共財を市場商品ではなく共有資源として再構築
• これが真のサステナビリティの基盤となる


結論
• 危機の原因は「人間の繁栄」ではなく「資本主義の過剰」
• 脱成長は反繁栄ではなく、過剰からの解放

地球の限界内で繁栄するには以下の取り組みが必要
 1.成長信仰の放棄
 2.資源消費総量の計画的縮小(特に先進国)
 3.富と公共財の徹底した再分配
 4.所有から共有へ、利益から福祉へ
 5.経済より社会を豊かにする設計
 などが実行すべき課題になる。