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マイクロプラスチックの問題は、海洋生物や人体への影響という観点から、このB&Gサイトでも取り上げてきました。しかし最近の研究では、プラスチック汚染、特にマイクロプラスチックが地球の気候システムにも影響を与える可能性があることが指摘され、注目を集めています。今年2026年1月にスイスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)=ダボス会議=でも、気候変動とプラスチック汚染の相互作用が「複合リスク」として重要視され、地球環境だけでなく、経済、社会、健康、安全保障にまで関わる大きな課題として提起されました。
シャルジャ大学(UAE=アラブ首長国連邦の総合大学)などの研究者が発表した論文「From Pollution to Ocean Warming: The Climate Impacts of Marine Microplastics」は、この気候変動とプラスチック汚染問題を体系的に整理したレビュー研究です。同論文をベースに「複合リスク」を概観します。
マイクロプラスチックはどこから来るのか
海洋のマイクロプラスチックの多くは陸上から流入しています。主な発生源として次のようなものが確認されています。
・合成繊維の衣類
・車のタイヤ摩耗
・プラスチックごみの分解
・化粧品や洗剤の微粒子
・包装材やレジ袋
例えば、ポリエステルなどの合成繊維で作られた衣類は、洗濯をすると非常に細い繊維が抜け落ちます。これらの繊維の一部は下水処理を通り抜け、川や海へと流れていきます。
道路を走る車のタイヤは摩擦によって削れ、その微粒子が雨とともに排水へ流れ込みます。
また、海や陸に捨てられたプラスチックごみは、紫外線や波によって少しずつ砕かれ、最終的にマイクロプラスチックへと変化します。こうして発生した微粒子は川を通じて海へ運ばれ、海洋に広く分布しています。
海は地球最大のCO₂吸収装置
この論文で特に重要なのは、海洋が地球の気候システムにおいて果たしている役割です。
海は、地球上で最も大きな二酸化炭素(CO₂)吸収源の一つです。人間活動によって排出されたCO₂の約25〜30%は海に吸収されています。
この吸収を支えているのが「生物炭素ポンプ(biological carbon pump)」と呼ばれる仕組みです。海洋では、植物プランクトンが光合成によってCO₂を取り込み、その植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、さらにそれを魚などが食べることで、炭素とエネルギーが食物連鎖の中を移動します。
最終的に、プランクトンや魚の死骸や排泄物の一部は海の深い場所へ沈み、炭素は長い時間をかけて海底に保存されます。このプロセスによって、大気中のCO₂の一部が海洋に固定され、地球温暖化の進行がある程度抑えられています。

マイクロプラスチックが炭素循環を乱す可能性
論文は、マイクロプラスチックがこの炭素循環の仕組みに影響する可能性を指摘しています。
主な影響は次の三つです。
1 プランクトンの光合成への影響
植物プランクトンは海洋のCO₂吸収の中心的存在です。しかし、マイクロプラスチックがプランクトンの表面に付着すると、光合成を妨げる可能性があります。また、プラスチックには有害化学物質が付着している場合があり、それがプランクトンの成長を抑制する可能性もあります。
もし植物プランクトンの活動が弱くなれば、海洋が吸収できるCO₂の量も減少します。
2 食物連鎖への影響
マイクロプラスチックは動物プランクトンや小型魚類に摂取されることが知られています。プラスチック粒子は消化できないため、摂取した生物のエネルギー効率が低下し、生物の成長や繁殖に影響が出る可能性があります。
食物連鎖が変化すると、プランクトンの死骸や排泄物が海底に沈む量も変化し、炭素を深海へ輸送するプロセスが弱くなります。
3 温室効果ガスとの関係
プラスチックは太陽光や熱によって分解すると、少量の温室効果ガスを放出することが報告されています。また、マイクロプラスチックの表面には微生物が付着して生息することがあり、この微生物群集は「プラスチスフィア(plastisphere)」と呼ばれています。
これらの微生物が炭素や窒素の循環に影響を与え、温室効果ガスの生成に関与する可能性も研究されています。
研究の重要なメッセージ
同論文の最も重要なメッセージは、マイクロプラスチック問題は単なる海洋ごみ問題ではないという点です。マイクロプラスチックは海洋生態系だけでなく、地球の炭素循環や気候システムにも影響を与える可能性が指摘されています。つまり、プラスチックごみが増えることは、海洋汚染を悪化させるだけでなく、長期的には地球温暖化を加速させる可能性があるのです。
今後の研究課題
論文では、この分野はまだ研究が始まったばかりであり、解明すべき課題が多く残されています。
今後、以下のような研究・調査が求められています。
・マイクロプラスチックが炭素循環に与える影響の定量化
・プラスチック分解による温室効果ガス排出量の評価
・海洋微生物群集の変化の解析
・長期的な海洋生態系への影響
これらの研究が進むことで、マイクロプラスチック問題と気候変動の関係がより明確になると期待されています。
「(下)世界フォーラムも複合リスク示唆」に続く