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四国・徳島県の中国山脈の南東に、地域ぐるみで廃棄物ゼロを目指し先進的な活動を展開し、世界的に注目を集める町、上勝(かみかつ)町があります。この町の取り組み「ゼロ・ウェイスト」運動の中心になった元同町町長の笠松和市さんを訪問し、廃棄物ゼロを実現するための歩みを伺い、地域文化活動ともいえる広がりを見せている現況を報告します。

上勝町は人口約1500人で四国でも一番小さい町といわれます。その上53%が65歳以上(2020年現在)と、高齢化と人口減少が進んでいます。
その町で1990年代からごみ焼却炉の老朽化問題が起こります。小さな町ゆえ財政もひっ迫していました。そこで多額の費用が掛かる焼却処理の見直しが始まりました。
ごみを「燃やさず、埋め立てず、資源として活用」してごみゼロを目指す町の政策が打ち出されます。町は焼却炉廃止を提案し、住民説明会を重ね、2003年に国内では初の「ゼロ・ウエィスト宣言」を発表しました。
この宣言までの活動を推進したのが当時上勝町の町長だった笠松和市(かさまつかずいち)さんでした。
具体的には町民が直接ごみを上勝町ゼロ・ウェイストセンターに持ち込み、分別回収をします。そして生ごみの堆肥化やリユース(不用意品の無料交換など)も含め再資源化を図っています。上勝町のごみのリサイクル率は80%以上で、国内の自治体の平均20%を大きく上回ります。

ゼロ・ウェイスト宣言の下、焼却炉のない上勝町ではごみを45種類以上に分類してリサイクルと再利用の徹底を図っています。
この上勝町ゼロ・ウェイストセンターは、単なるごみ集荷やリサイクルの組織ではなく、ホテルや学習スペースもあり、町民と旅行者、研究者の出会いの場としても活用されています。

笠松さんはまた環境教育の必要性も訴え、町内にゼロ・ウェイストアカデミーを設立し、ごみを出さない社会を学び、広めることにも注力してきました。海外も含めた全国からの視察や研修を受け入れ、町内のごみリサイクル、再資源化を紹介、体験会なども実施してきました。
これらの多彩な活動は、ごみを資源にする地域循環の実現とともに持続可能な地域づくり、地域活性化にも貢献しており、国内外の注目を集めています。
笠松さんはこれまでの歩みを「住民参加とその意識改革、仕組みづくり、教育、企業の連携など、単なるごみ減らしではなく、社会の仕組みを変えるという視点で進めてきた」と振り返ります。そして「課題はごみではなく、ごみを生む仕組みにあり生産・消費・廃棄の全過程で責任の見直しが必要です」と指摘されました。強調されたのは「使い捨て」から「循環」への転換でした。
取材を終えて
笠松さんのお話は多岐にわたりここに書ききれていないことが多くあります。

その中から笠松さんが指摘された環境問題の3つのテーマは大切な課題だと思いますので概略を以下に紹介します。
今後も継続しこの3つにつき取材を深めていきたいと思います。
テーマは「資源回収法」「環境税」「林業衰退」です。
「資源回収法」は、企業に回収責任を持たせることで、焼却や埋立に頼らない真の資 源循環社会を目指すものです。これにより「環境に良いことをすれば利益が出る」仕組みが生まれます。
次に「環境税」は、化石燃料に税をかけて得た収入を再生可能エネルギーや地域産業に活用することで、環境保全と経済成長の両立を図る提案です。環境への投資が、地域の雇用やエネルギー自立を支える可能性が期待できます。
林業衰退については、安い外国産木材が多く使われるようになり、国産木材を使わなくなったことで、木を切らなくなり、森林管理の担い手と技術が衰退しました。その結果、森が荒れ、自然災害も増えているのです。
「切って、使って、植える」循環林業の再生が、自然と共生する社会への鍵となるのです。
総じて、日本の環境問題は「制度(法律)」と「意識」の両方を変えなければ解決しません。笠松さんのお話で、私は今この時代が、資源を使い捨てる社会から、循環を重んじる社会へと大転換を図る最後のチャンスだと確信しました。今こそ「環境革命」が必要です。
(下巻はコメ作りに使われるプラスチック被覆肥料について報告します)
2025/9/26-27
徳島県上勝町にて取材
CheFuKo 森 和美