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「2050年には海の中の廃棄プラスチックの量が魚を超える」という言葉が、プラスチック汚染の象徴的な警告としてよく使われます。この言葉の妥当性と意味を考えてみます。
出典とされるのは、2016年に世界経済フォーラムなどが中心にまとめたレポートです。この報告書では「現状のままプラスチックの生産と流出が続けば、2050年に海洋中のプラスチックの総重量が魚の総重量を超える」と予測されました。
この予測は当時の世界の廃プラスチックの流出量や漁業データを基に推計しています。
その推計はまず海洋に流出するプラスチックを毎年少なくとも800万トン以上と推定します。
そして魚については海洋中の魚類バイオマス、つまり世界中の海に生息する魚類全部の総重量を推計し、将来モデルで推計するのではなく、一度推計した8億1200万トンを基準値とし、2015年~2050年はこの総量が一定と仮定し比較しています。
その上で、海に毎年流出、堆積するプラスチックの総量が魚の総量と同じになり、超えてしまうのが2050年と注意喚起しています。
批判もあり
2050年の海中のプラスチックと魚の総量逆転については、批判、反論も出ています。
予測には仮定が多く、実データの裏付けがない。正確な科学的推計値は存在しない、などの指摘が続きました。
報告書は編集時点からこれらの批判を予測しており、「本報告書の目的はビジョンを示すことであり、最終的な科学的結論を出すものではない」と断っています。
報告書の主な目的はプラスチックを有効に活用し、廃棄物汚染を回避する循環経済(リユースとリサイクル)の提案にあり、ここに注目を集めたことで高い評価を得ています。
ただ魚の総重量は推定が難しく、以後国際機関や主要論文ではプラスチックなどとの総量比較は見当たらない、と言われてます。
プラスチック流入は増えている
世界経済フォーラムの報告から10年が経ちますが、最近の推計値は以下の通りです。
年間の海洋へのプラスチック流入量は800万トンから1400万トン(国連環境計画)
海洋蓄積のプラスチック総量は7500万トンから1億9900万トン(2023年ノルウェー、米国の大学の共同研究)

また海洋の魚の総重量は10億トンから100億トンという推定がそれぞれあります。この総重量の多くを占めるのは中層の小型魚で中層魚だけで10億トンという推計も出ています。
海洋は広大で深く、魚の分布もばらつきがあり測定が困難なこと、漁獲データあるいは音響観測、モデル推計など、調査方法で結果が大きく変化する、などの要因で魚の総重量推定は難しく、科学的推定を妨げています。
以上のように報告の推計値はその後の調査、研究結果とも乖離しており、「廃棄プラスチックの魚超え」は実証された予測とは言い難いものです。
しかし、海洋への流出プラスチックは確実に増加のテンポを速めており、その防止のための政策的インパクトを狙った象徴的表現・キャッチフレーズとしては効果があったようでもあります。