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「成長、膨張、物質的豊かさの追求」といこれまでの根本概念を崩す新しいパラダイムを創造するために、参考資料の2つ目として斎藤浩平氏の「人新生の『資本論』」の要約を紹介します。

この本は経済書、思想書としては異例のベストセラーとなり、2020年の発売以来3年ほどで売り上げが50万部を超え、海外でも評判を得ています。「人新生」「資本論」と、馴染みのない難しいタイトルなのに、なぜこれほどのど読者を獲得しているのでしょうか。
地球環境破壊の元凶は資本主義の成長至上主義に
本書で斎藤氏は、地球の環境破壊の主要因は、利潤追求と経済成長を優先する資本主義が自然を無限に搾取可能な対象としてきたことにあると主張します。温暖化による異常気象や、大気や水質の汚染、石油や鉱物資源の収奪は資本主義という経済システムの構造的帰結だと断じます。またそれを最も早く19世紀半ばに分析予告していたのがカール・マルクスだったと説きます。
そしていま世界が目指す、再生可能エネルギーや電気自動車の普及による公共投資などのグリーン・ニューディールでは、環境危機の克服は難しいと批判します。その上で水やエネルギー、土地を共有財(コモン)とした「脱成長コミュニズム」という、成長や利潤を目的としない新たな社会を提言します。GDP(国内総生産)の増大だけを指標とする社会から、過剰消費や長時間労働から解放された持続可能な社会のビジョンを提示します。
本書には理論の飛躍がある、実践への道筋が曖昧などの批判が専門家から出ています。
しかし大規模山林火災や巨大台風、洪水を頻発させる天候異変や、経済的格差の拡大に不安を覚える人々に、その原因の根幹に資本主義の成長至上主義がある、という明確な主張が受け入れられ、学生や一般読者の多くを引き付けているようです。その意味でB&G・プロジェクトの資本主義の次の考察には欠かせない一冊になります。
本書は、地球環境問題が深刻化する現代を「人新世」(※文末補足)と呼ぶことから議論を始めます。人新世とは、人類の活動が地球環境そのものを変えるほどの影響力を持つ時代を意味します。著者は、地球の環境悪化に「人類全体」が一様に責任を負うという見方に強く異議を唱えます。環境破壊の主因は、資本主義という特定の経済システムにあるというのが本書の立場です。特に、利潤追求と経済成長を最優先する資本主義の論理が、自然を無限に搾取可能な対象として扱ってきた点が問題視されます。
気候変動、生物多様性の破壊、資源枯渇は、偶然の失敗ではなく、資本主義の構造的帰結であると断じます。
2.成長主義の限界
資本主義社会では、経済成長こそが雇用、福祉、技術革新を支えると考えられてきました。この「成長主義」に対し、斎藤氏は根本的な限界を指摘します。
第一に、技術革新による環境問題解決には限界がある点です。省エネ技術や再生可能エネルギーが普及しても、生産量そのものが増え続ければ、資源消費と環境負荷は最終的に増大します。これは「リバウンド効果」と呼ばれ、効率化が逆説的に消費拡大を招く現象です。
第二に、成長は格差を是正しません。実際には、経済成長の恩恵は富裕層や大企業に集中し、労働者や途上国には十分に還元されていません。環境負荷は社会的弱者に押し付けられる構造が存在します。
第三に、地球には明確な物理的限界があります。有限な地球で無限の成長を続けることは不可能であり、成長主義そのものが持続不可能だと結論します。
3.マルクスの再発見
ここで著者は、マルクス思想の再評価をします。従来の理解では、マルクスは生産力の発展を進歩とみなす「成長肯定論者」として扱われてきました。しかし、近年公開・研究が進んだ晩年のノートを通じて、別のマルクス像が明らかになります。
晩年のマルクスは、資本主義が人間と自然の間の「物質代謝」を破壊することに強い危機感を抱いていました。資本主義的農業は、短期的な利益のために土壌の養分を奪い、自然の再生能力を損なうと批判しています。
この視点から、資本主義は単に労働者を搾取するだけでなく、自然そのものを破壊するシステムとして捉えられます。著者はこの思想を「エコロジカル・マルクス」と呼び、人新世の危機を理解するための理論的基盤として位置づけます。
4.脱成長コミュニズム
成長主義と資本主義を批判したうえで、著者が提示する代替構想が「脱成長コミュニズム」です。これは、経済縮小や貧困の容認するものではありません。
脱成長コミュニズムとは、成長や利潤を目的としない社会への転換を意味します。必要なものを、必要な量だけ生産し、人々の生活の質と自然の再生を最優先にする社会像です。
その特徴として、
• 市場競争よりも協同と共有を重視する
• ケア労働や再生産労働を社会の中心に据える
• 長時間労働や過剰消費からの脱却を目指す
といった点が挙げられます。GDP(国内総生産)の増加ではなく、幸福や持続可能性が評価基準となります。
5.国家・市場・コモンズ
本書は、国家か市場かという二者択一を超え、「コモンズ(共有財)」の重要性を強調します。
水、エネルギー、医療、教育などを公共的に管理し、市場原理から切り離すことで、環境負荷と不平等を同時に軽減できると論じます。
これは旧来型の中央集権的計画経済ではなく、地域や市民による民主的・分散的な管理を前提としています。コモンズの再構築は、脱成長社会を支える具体的制度として位置づけられます。
6.結論:人新世における選択
本書の結論は明確です。
成長資本主義を続ける限り、環境危機は回避できず、社会の不安定化は進行します。
私たちは、
「経済成長か停滞か」ではなく、
「破局か、社会の根本的転換か」
という選択を迫られています。
脱成長コミュニズムは理想論ではなく、すでに各地で芽生えつつある実践を理論化したものとして提示されます。
まとめ
• 環境危機の原因は資本主義の成長原理にある
• 技術革新やグリーン成長では限界がある
• 晩年マルクスは自然破壊を鋭く批判していた
• 脱成長コミュニズムは現実的な社会構想である
※人新生(じんしんせい/ひとしんせい)=新しい地質世代の一つとして提唱されている概念。地質時代は、地球上の生物の大変化や気候と地球環境の変化、地殻や大陸の変化再編によって時代区分をします。現在は巨大隕石の衝突や恐竜の絶滅によって始まった新生代(6600万年前~)の第四紀・完新世(11,700年前~)の時代とされていますが、人類の活動が地質や生態系に大きな影響を与えているために、新たな人新生に入っているという主張が高まっています。