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汚染・廃棄物
2025.12.18
プラスチック汚染現況 特別レクチャ―第3部

東海大学教授 清水宗茂氏

 魚介類や食品におけるプラスチック汚染・その排泄の可能性

以下も参照ください。

第1部 「地球環境と人類の歩み、精神革命の必要性」 浅井隆氏

第2部 「プラスチック汚染の現況と健康影響」樺沢暢之氏

清水宗茂教授 講演要旨


1.自己紹介
• 東海大学 海洋学部 水産学科(静岡キャンパス)
• 専門は栄養学・健康科学・食品化学
• 海洋ごみ・マイクロプラスチックと「食・健康」の関わりを研究


2.現場で見た「マイクロプラスチックだらけの海」
  宮古島の漂着ごみ

• 見た目は「きれいな海」というイメージだったが、実際は
o ペットボトル・漁具・タイヤ・発泡スチロールなど大量のごみ
o 3時間・150人でビーチクリーンをしても、まだ6割しかきれいにできないほどの量
o プラスチックの破片=マイクロプラスチックも大量

(大量のごみを回収する東海大学の学生たち)


お台場海浜公園(高校生との調査)
• 規定に従い、20×20cm・深さ2.5cmの砂を採取
• 2mm以上のものだけ拾っても、1サンプルで100個近いマイクロプラスチック断片を見つけた高校生も
• 生徒たちは
o 「普段何気なく歩いている砂浜にこんなにあるとは…」と衝撃
o 「自分たちに何ができるか」をレポートにまとめている

  1. マイクロプラスチック(MP)とは何か
    • 定義:5mmより小さいプラスチック片
    • さらに小さいものはナノプラスチック(マイクロの千分の一)と呼ばれる
    • 発生源
    o 一次:スクラブ(MP)入り歯磨き粉・化粧品など(今は規制でかなり減少)
    o 二次:ペットボトル、レジ袋、発泡スチロールなどが劣化・破砕して細かくなる
    海では
    • 表面に浮くだけでなく、微生物が付着して重くなり海底へ沈む
    • 深海3000〜5000mにもタイヤやカップ麺容器などのごみがそのまま残存
    • 目に見えないマイクロプラスチックも海底に大量に堆積している

  1. 食品中のマイクロプラスチック
    4-1. 魚の中から

    • 東京湾の片口イワシの8割の個体の消化管にマイクロプラスチックという報告
    • 清水教授も
    o 駿河湾でとれたカマス・アジを各10尾購入し、消化管を調査
    o 計20尾中5尾で、肉眼で確認できるマイクロプラスチックを発見
    ※今のところ、筋肉(身の部分)にマイクロプラスチックがあるという確定報告は少ないが、分析技術が細かくなれば今後見つかる可能性も否定できない。

4-2. 食塩の中から
肉眼レベル(0.1mm以上)
• 日本の市販食塩(国産数種+中国産)を30gずつ調査
• まず異物を拾って、FTIR(赤外分光装置)で材質を判別
o 国産の塩:
 綿・紙・木片などが多く、プラスチックではない異物が中心
o 一部の中国産の塩:
 AS樹脂(プラスチック)が検出
「国産はとりあえず大きいプラスチック片は少なそうで一安心」という段階。
肉眼で見えないレベル(20〜100μm)
• 沖縄・伊豆大島・徳島の海水由来の塩(30g)を精密解析
• 顕微鏡+自動判別装置で見ると
o 伊豆大島の塩では一試料30g中40個以上のマイクロプラスチック
o 共通して検出された主な材質は
 ポリエチレン(PE)
 ポリプロピレン(PP)
 ほか、アルキド樹脂など


→ 結論:国産でも「海水から作った塩」には、見えないレベルのマイクロプラスチックが普通に入っている。
Q&A:ヒマラヤ岩塩なら安全?
• 質問:「ヒマラヤの岩塩なら大丈夫?」
• 回答:
o ヒマラヤ岩塩を含む岩塩系でも、マイクロプラスチックは検出されている
o 海水塩ほど多くない傾向はあるが、
 採掘~輸送~包装の過程で空気中や袋・容器から付着する可能性
o 「完全に安全」とは言えない


4-3. 容器・包装由来
海外論文を見て、「国産も大丈夫か?」と気になり、以下の容器だけを取り寄せて中身なしで調査:
• 電子レンジ対応レトルト容器(主材料:ポリプロピレン)
• マヨネーズ容器(主材料:ポリエチレン)
• カップ麺容器(主材料:ポリスチレン)
• ドレッシング/飲料用ボトル(PET:ポリエチレンテレフタレート)
超純水で容器表面を洗い、その水をフィルターに通して分析したところ:
• 20µm以上のマイクロプラスチック粒子が
o カップ麺容器:表面に約91個
o その他の容器からも多数検出
※実際の使用時は「お湯を注ぐ」「電子レンジで加熱する」ため、さらに増える可能性が高いと考えられる。


4-4. その他、気になる食品・生活用品
• 貝類(アサリ、ムール貝など)
o プランクトンと一緒に海水を大量に取り込む性質上、マイクロプラスチックを溜め込みやすい
o 貝を「丸ごと」食べる料理(シーフードスパゲッティなど)は、リスクが高めと考えている
• 小魚(シラス・ジャコ・イワシ丸干しなど)
o 内臓ごと食べるため、マイクロプラスチックを摂りやすい
o 「シラスはどうか?」という質問にも、「可能性はあるので今後測ってみたい」との回答
• ティーバッグ
o 熱湯を注ぐとかなりのマイクロプラスチックが出るという海外報告あり
• ガム
o ベースが天然由来のものもあるが、合成樹脂(プラスチック)を含むタイプも多い
o 咀嚼によってマイクロプラスチック化するとの報告
• 調味料の塩
o 昔ながらの「天日干し・平釜」などの塩は、海の現状を考えるとマイクロプラスチック混入リスクは相対的に高く、
o 工業的に電気分解で作る塩の方が数は少ない傾向


  1. 人体への影響
    以前は「大きいマイクロプラスチックは便から出るから大丈夫だろう」と考えられていた

最近の検査などから:

  1. 腸内細菌への影響
    o 人は約1.5kgもの腸内細菌を抱えている
    o マイクロプラスチックが腸内環境・善玉菌に悪影響を与えている可能性が指摘され始めている
  2. 小さな粒子は体内に吸収される
    o マウスに20µmや5µmのマイクロプラスチックを摂取させると
     肝臓や腎臓などの臓器に蓄積していたという結果
  3. 人の血管内プラークにも存在(イタリアの研究)
    o 血管内のプラーク(動脈硬化の原因となる脂の塊)を調べたところ
     マイクロプラスチックが多く検出された患者群は、少ない群に比べ
     心筋梗塞・脳卒中・死亡リスクが約4倍
    → まだ断定はできないものの、「健康リスクがない」とはもう言えない段階に入ってきているという認識。

  1. 「出す」ためのアプローチ:キトサン
    清水教授のアイデア:
    「完全に避けるのが難しいなら、体に入ってしまったマイクロプラスチックをどうやって“出す”か?を考えよう」
    そこで、「食品として安全性が確認され、特定保健用食品などでも使われている素材」に注目。
    試した素材(食物繊維など)
    • 難消化性デキストリン
    • 各種オリゴ糖
    • 食物繊維(βグルカンなど)
    • キト酸(キトサン)
    o エビ・カニの殻から作られる水に溶けにくい食物繊維
    • 卵殻タンパク質 など
    マウス試験(0.2mmのマイクロプラスチック)
    • 直径0.2mmの青い球状マイクロプラスチックを
    o 1日約3300個摂取させる(人間の摂取推計に近いレベル)
    • 餌グループ
    o 通常餌(対照)
    o 各種食物繊維を5%混ぜた餌
    • 毎日の糞を集め、マイクロプラスチックの排泄数をカウント
    結果:
    • 通常餌:145時間(約6日)経っても、食べた量の約8割しか排泄できていない
    • キト酸入り餌:
    o 早い段階から排泄率が高く、最終的な排泄率も有意に高い
    o 解剖すると、盲腸など消化管内に残っているマイクロプラスチックの量が明らかに少ない

さらに小さい粒子でも
50µmのマイクロプラスチック
• 条件はほぼ同じで粒子の大きさだけ小さく
• 通常餌:168時間経っても約6割しか排泄されない
• キト酸入り餌:常に排泄率が高く、残存量が少ない
25〜30µmクラス
• より現実に近いサイズ
• 1日あたり約1.3万個摂取させ、2週間追跡
• 通常餌:
o 最終的に約4割が体内に残る(6割排泄)
• キト酸入り餌:
o 排泄率が有意に高く、腸内残存量も少ない
→ 大きさが小さくなっても、キト酸はマイクロプラスチック排泄を促進する効果を維持していると考えられる。


なぜキト酸が効くのか?(人工消化管モデル)
• ビーカー内で
o マイクロプラスチックのみ
o マイクロプラスチック+キト酸
を人工胃液・人工腸液と混合し、腸内pH(7〜8)で反応させる実験
結果:
• マイクロプラスチックだけ
o 沈殿するのは約20%、残り80%は浮いたまま
• キト酸を加えると
o 約80%が沈殿し、浮いているのは20%程度に
推定メカニズム:
• キト酸(プラスに帯電しやすい)が、
o マイナスに帯電したプラスチック表面と電気的に引き合い
o あるいは物理的に絡みつき
o 「塊」にして便として排泄されやすくしている


  1. 私たちにできること・6R
    完全な「プラスチックフリー生活」は現実的ではないので、
    「どう共存しつつ、できるだけ減らしていくか」が大事。
    静岡県の掲げる「6R」:
  2. Reduce:使う量を減らす
  3. Reuse:繰り返し使う
  4. Recycle:資源として再利用
  5. Refuse:不要なレジ袋・使い捨て容器を断る
  6. Return:容器などをお店に返す、元の場に戻す
  7. Recover:ビーチクリーンなどで、元の自然な姿に近づける活動
    清水教授自身も
    • 月1回程度、キャンパス前の三保松原で学生とビーチクリーンを継続
    • 海外研修航海でも、
    o マジュロ(標高最高6mの環礁国家)の学生たちと環境問題を議論
    o 気候変動・海面上昇・マイクロプラスチックの影響への危機感を共有

  1. まとめ
    • 海も砂浜も食品も、マイクロプラスチックはすでに日常的に混入している
    • 特に
    o 海水由来の塩
    o プラスチック容器・ティーバッグ・貝類・小魚
    は注意ポイント
    • 健康への悪影響(腸内環境悪化、臓器への蓄積、心血管リスク増加)が研究で示され始めている
    • 完全に避けるのは不可能なので、
    o 使い捨てプラスチックを減らす生活+ビーチクリーンなどの6R
    o 食物繊維の中でもキト酸のように「排泄を助ける素材」の活用
    といった両面から取り組む必要がある。