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2003年に国内では初の「ゼロ・ウェイスト宣言」をし(上巻参照)、ごみのリサイクル率80%以上を実現している四国・徳島県上勝(かみかつ)町元町長の笠松和市さんを訪問し、「新たなプラスチックごみ問題」についてお話を伺いました。
「新たなプラスチックごみ問題」は、笠松さんがごみ処理問題に取り組む中、身近な場所で見つけました。それは自分の田んぼでずっと使用してきた肥料が、実はプラスチックでコーティングされており、最後に大量のプラスチックの殻が田んぼや用水路にごみとして残ってしまっているという事実です。

使っていたのは「プラスチック被覆肥料」です。稲の生育段階に合わせて肥料成分がゆっくり溶け出すように調整された画期的な肥料です。春に投入すると、夏場の暑い時期に作業が大変な追肥の手間が省けるため、高齢化が進んでいる農家にとっては重宝されていました。また従来の肥料よりも投入量も減らすことができ、地下水への栄養分の流出など環境汚染も低減できると評判でした。このようなメリットから、全国のコメ作農家の60%で使用されていると言われています。
しかし、肥料が出た後のプラスチック被覆殻は、田んぼの土の中は勿論、田んぼから用水路を通じ最後には海まで流出している現状があります。問題はこの汚染の実態が知られていないことです。
プラスチックごみについて町を挙げてリサイクルやリユースなどに取り組んできた笠松さんも、最近まで肥料が溶け出した後の小さな粒の殻は、何かの虫の卵だと思っていたそうです。ちょうど白いプラスチックの丸い粒上の殻の真ん中が避けていて、まるで卵から孵化した後のように見えるからです。

卵の抜け殻だとしてもあまりにも大量の白い殻が毎年、田んぼや用水路に流れ出ていることを疑問に思い、よくよく調べたところ春に撒いている肥料がプラスチックでコーティングされた殻に入っていることがわかったのです。

「しかもその殻が海洋にまで流出していることがわかった時は、衝撃が走りました」と笠松さんは振り返ります。「さらに問題なのは、全国のコメ作り農家の60%で使用されていても、プラスチックでコーティングされているということを知らない農家がほとんどなのです」と指摘します。

現在、水田から流出した「プラスチック被覆肥料」の殻が海洋プラスチックごみとなり、マイクロプラスチック化し、海洋汚染や生態系へ悪影響を引き起こしているのではないか、と問題視されてきています。
水田などでマイクロプラスチック化したものが土壌に浸透した場合、植物の成長や栄養吸収、土壌微生物の活動をどう妨げるか。プラスチック添加剤の化学物質がどう影響してくるかはまだわかっていません。
農林水産省や肥料メーカーなど関係団体は2030年までに「プラスチックに頼らない農業」とし、具体的な流出防止対策や新たな代替肥料の転換を目指しています。代替肥料の開発も進められていますが、稲の生育段階に応じてゆっくり溶け出す「プラスチック被覆肥料」の代替品の開発はかなり時間がかかるとも言われています。

笠松さんは、今も上勝町のごみのリサイクルや再資源化などの環境教育の必要性などを推進していくNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの代表として活動されています。令和6年9月には「プラスチック被覆肥料」を規制する法の制定の意見書を上勝町議会から政府(衆参両院)に提出しています。
この意見書で笠松さんらは水田で使用されている「プラスチック被覆肥料」を規制する法律が無いことを問題として、「資源回収法(仮称)」の制定を要望しました。これは商品を販売する企業は、消費者が不要となった物は全て有価で回収し、有価で回収出来ないものは罰則をもって製造販売を禁止するという法律の制定要望書となっています。
「企業は商品の企画開発の段階からごみの回収責任まで意識しなければならず、資源が循環し、環境と経済の好循環を目指す仕組みが実現しなくてはならない」と笠松さんは強調します。
B&Gプロジェクトとして、今後も徳島県上勝町と笠松さんらの積極的な活動に注目していきたいと思っています。

2025/9/26-27
徳島県上勝町にてCheFuKo 樺沢暢之
(写真右。左は笠松和市さん)