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人と社会への影響
2026.03.12
マイクロプラスチックが免疫を弱める?

最新研究によるメカニズム解明

1.はじめに
ここ3年ほど、直径5ミリ以下のプラスチック片「マイクロプラスチック」の人体への影響を調べる研究や論文が世界で急増しています。中でもマイクロプラスチックの免疫細胞の機能に与える影響に注目が集まり、成果が報告されています。各調査、研究ではマイクロプラスチックが免疫細胞の機能を阻害している可能性を示唆しており、改めてプラスチック汚染の深刻さを裏付けています。

2.免疫細胞マクロファージの働き
人間の体には、細菌やウイルスなどの異物を排除する免疫システムが備わっています。その中でも重要な役割を担う細胞が「マクロファージ」です。

(wikipediaより。マウスのマクロファージ。病原体の可能性がある2つの粒子を捕食するため、細胞体を突起状に伸長させている)。


マクロファージは、体内で不要になった細胞や病原体を取り込み、分解する働きを持ちます。この働きは「エフェロサイトーシス(efferocytosis)」と呼ばれ、死んだ細胞を取り込んで処理する免疫機能の一つで、体の組織を健康な状態に保ついわば掃除役を担っています。この働きがなく、死んだ細胞が処理されずに体内に残ると、炎症や自己免疫疾患の原因になることがあるといわれています。このような背景から、近年ではマイクロプラスチックが免疫細胞の機能に与える影響についての研究が進められています。

3.マイクロプラスチックによる免疫機能の低下
これまでの研究によると、ポリスチレンという種類のマイクロプラスチックを免疫細胞のマクロファージに取り込ませると、他の死んだ細胞を取り込み、消化する能力が大きく低下することが確認されています。
マクロファージはマイクロプラスチックを取り込むことはできますが、これらを十分に分解する仕組みを持たないため、プラスチックの粒が細胞内に蓄積し、免疫細胞の正常な働きを妨げると考えられています。

さらに動物実験でも同様の結果が確認されました。マイクロプラスチックを与えたマウスでは、肺や肝臓で死んだ細胞が十分に処理されずに残りました。また、また、精巣にもプラスチック粒子が蓄積する可能性が報告されており、長期間の実験では精子数や運動能力の低下など、繁殖機能への影響が示唆されています。

加えて、マイクロプラスチックが蓄積した免疫細胞は、細菌や真菌などの病原体を攻撃する能力も弱くなることが確認されました。これは、感染症に対する体の防御力が低下する可能性を示しています。

4.免疫機能低下のメカニズム
マイクロプラスチックが免疫細胞に影響を与える仕組みについても研究が進んでいます。
マイクロプラスチックを取り込んだ細胞では「メチルグリオキサール(MGO)」という物質が増えることが分かりました。
MGOはタンパク質の働きを妨げる物質であり、この物質が増えることで「G6PD(グルコース6リン酸脱水素酵素)」という細胞の代謝や抗酸化反応に関わる重要な酵素の働きが弱くなります。その結果、細胞内で不要な物質を分解する装置であるリソソームが正常に機能しなくなり、死んだ細胞を十分に処理できなくなると考えられています。

一方で「GLO1」という酵素の働きを強めると、MGOを減らすことができ、免疫細胞の機能が回復することも確認されました。この結果は、将来的な治療法の研究につながる可能性があります。

まとめ
これまでの研究から、マイクロプラスチックが免疫細胞の働きを弱める可能性と、そのメカニズムの一端が明らかになりました。特に、免疫細胞の内部にプラスチック粒子が蓄積することで、死んだ細胞の処理能力や病原体への防御能力が低下する可能性があることが判明しました。この研究は、免疫細胞の機能障害が肝臓や肺などの組織障害につながり、さらに多臓器へ影響が広がる可能性を示しており、そのメカニズムの解明が進みつつあります。


参考文献
1. WIRED Japan編集部
「マイクロプラスチックは免疫細胞の機能を阻害する:研究結果」
2.論文 Codo, A. C. ほか
• Polystyrene microplastic-induced pathophysiology is driven by impaired efferocytosis
「マイクロプラスチックが免疫細胞の“死細胞処理機能”を阻害する研究」
• Immunity(2026)
3. 論文 Merkley et al.
• Polystyrene microplastics induce an immunometabolic active state in macrophages
「マイクロプラスチックが免疫細胞の代謝を変化させる研究」(2021)
など参照